データ分析担当者への依頼でクリエイティブを強くする:マーケターが伝えるべき3つの視点
はじめに
デジタルマーケティングの世界では、日々新しいクリエイティブ施策が生まれ、実行されています。しかし、それらの施策が本当に成果に繋がっているのか、感覚だけでなく定量的に把握し、次の改善に活かすことは容易ではありません。データ分析の重要性は理解しているものの、どのようにデータ分析担当者へ依頼すれば、クリエイティブ改善に役立つ具体的な示唆を得られるのか、悩むマーケターの方も少なくないかもしれません。
データ分析は、依頼する側の視点や伝え方によって、得られる結果の質が大きく変わります。単に「この施策の効果を見てほしい」「この期間のデータがほしい」といった依頼では、期待するアウトプットが得られないことがあります。データ分析担当者との連携を強化し、クリエイティブ施策の成果を最大化するためには、マーケター側が明確な意図と視点を持って依頼することが重要です。
この記事では、デジタルマーケターがデータ分析担当者へクリエイティブ施策に関するデータ分析を依頼する際に、必ず伝えるべき「成果に繋がる3つの視点」について解説します。これらの視点を意識することで、データ分析の結果をより具体的なクリエイティブ改善アクションに繋げ、施策の成功確率を高めることができるでしょう。
データ分析依頼におけるマーケターの課題
多くのデジタルマーケターは、日々多くの業務をこなしています。その中でデータ分析担当者へ依頼する際に、以下のような課題に直面することがあります。
- 依頼内容が漠然としてしまう: 具体的にどのようなデータが必要なのか、なぜ必要なのかが不明確なまま依頼してしまう。
- 分析の目的が伝わらない: 依頼の背景にあるクリエイティブ施策の意図や、その施策で何を達成したいのかが十分に共有されない。
- 期待するアウトプットが曖昧: どのような示唆やアクションプランを得たいのかが明確でないため、分析担当者もどこに焦点を当てて分析すれば良いか判断に迷う。
- 分析結果をアクションに繋げられない: 分析レポートを受け取っても、それがクリエイティブのどの部分をどう改善すれば良いのか、具体的なヒントが見つけにくい。
これらの課題は、データ分析担当者とのコミュニケーション不足や、マーケター側からの情報提供の不足に起因することが多いです。データ分析をクリエイティブ成果に繋げるためには、依頼する段階から「クリエイティブをどう強くするか」という視点を持つことが不可欠です。
成果に繋がるデータ分析依頼のための3つの視点
データ分析担当者にクリエイティブ施策に関する分析を依頼する際、マーケターが意識し、伝えるべき重要な視点は以下の3つです。これらを明確に共有することで、データ分析の方向性が定まり、より実践的なアウトプットが得やすくなります。
視点1: 「何のために」そのクリエイティブ施策を行ったのか(施策の目的と仮説)
データ分析の出発点は、常に「なぜその施策を実行したのか」という問いにあります。この「なぜ」を明確に伝えることが、データ分析担当者が適切な指標を選定し、分析の切り口を定める上で最も重要です。
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伝えるべき内容:
- 施策の具体的な目的: 例: 「〇〇という新しいターゲット層にリーチし、サービス認知度を高める」「Webサイトの特定ページの離脱率を改善する」「広告クリエイティブのクリック率を向上させる」など。単なる売上向上だけでなく、その施策がマーケティングファネルのどの段階に影響を与えることを狙っているのかを具体的に伝えます。
- 施策の背景: なぜこの施策が必要だと判断したのか、どのような課題を解決しようとしているのかといった背景情報を共有します。
- 施策における仮説: そのクリエイティブによって、どのようなユーザー行動の変化が起こると「仮説」を立てているのかを明確に伝えます。例: 「〇〇というデザインのバナーは、既存顧客よりも新規顧客の関心を引き、クリック率が高まるはずだ」「この新しいLPのコピーは、サービスのベネフィットをより明確に伝えられるため、フォーム入力完了率が向上するはずだ」など。
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なぜこの視点が重要か:
- 分析担当者は、施策の目的と仮説を理解することで、その仮説がデータによって検証可能か、検証するためにはどのようなデータが必要かを判断できます。
- 漠然と「この施策の効果を見てほしい」と依頼されても、何をもって「効果があった」とするかが不明確では、適切な分析結果は得られません。目的と仮説を共有することで、「〇〇という目的達成に、施策Aが貢献したか」という具体的な問いに対する分析が可能になります。
- 仮説が明確であれば、仮説が正しいかどうかの検証、そして仮説が外れた場合にその原因を探るための深掘り分析へと繋げやすくなります。
視点2: 期待している「具体的な変化・成果」は何か(成功指標、KPI)
施策の目的を定めたら、次にその目的達成度を測るための具体的な指標を明確にします。これが、いわゆるKPI(Key Performance Indicator)やその他の重要な成功指標(Success Metrics)にあたります。
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伝えるべき内容:
- 施策の成功を測る具体的な指標: 例: 「クリック率 (CTR)」「コンバージョン率 (CVR)」「ページ滞在時間」「離脱率」「特定のイベント発生率」「ブランドリフト調査での認知度向上率」など。視点1で設定した目的に対して、直接的に影響を受けると想定される指標を選びます。
- 目標値(可能であれば): 可能であれば、その指標がどの程度改善することを期待しているのか、目標値を伝えます。目標値があることで、分析担当者も「この目標値達成に向けて、データから何が言えるか」という視点で分析を進めやすくなります。
- 比較対象: 何と比較して評価したいのか(例: 施策実施前のデータ、別のクリエイティブパターン、特定のセグメントのデータなど)を伝えます。
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なぜこの視点が重要か:
- 明確な指標が設定されていることで、分析担当者はその指標の推移や、指標に影響を与えている要因(ユーザー属性、参照元、使用デバイスなど)を特定することに焦点を当てた分析ができます。
- 「効果があったか」の判断基準が共有されるため、分析結果が「効果があった」「効果がなかった」だけでなく、「なぜ効果があったのか/なかったのか」という原因究明へと繋がります。
- 指標を定義する過程で、分析担当者は必要なデータが収集できているか(例: GA4でのイベント計測設定ができているかなど)を確認し、必要に応じてデータ収集基盤の見直しを提案できます。
視点3: 分析結果を「どう活用したい」のか(具体的なネクストアクション案)
データ分析は、分析結果を得ることがゴールではありません。その結果をどのように次のアクションに繋げるか、という活用視点が最も重要です。マーケターがどのようなアクションに分析結果を活かしたいのかを伝えることで、分析担当者はより実践的な示唆や、アクションに繋がりやすい形式でレポートをまとめることができます。
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伝えるべき内容:
- 想定されるネクストアクション: 分析結果を受けて、具体的にどのようなアクションを検討しているのかを伝えます。例: 「クリエイティブのA/Bテストを行う」「Webサイトの特定のコンテンツを修正する」「ターゲットとするユーザー層へのメッセージングを変更する」「特定の広告チャネルへの予算配分を見直す」など。
- 知りたい具体的な示唆: 想定されるアクションを実行するために、データからどのような「示唆」や「判断材料」を得たいのかを明確に伝えます。例: 「どのようなユーザー層にこのクリエイティブが響いているか」「ユーザーがLPのどの部分で離脱しているか」「どのメッセージングが最もクリック率が高いか」など。
- レポートの形式に関する希望(あれば): どのような形式であれば、自分が理解しやすく、関係者にも共有しやすいかを伝えます(例: 「具体的な要因がわかるグラフがあると嬉しい」「〇〇の指標に絞ったシンプルなレポートが良い」など)。
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なぜこの視点が重要か:
- この視点を共有することで、分析担当者は単なる数値の羅列ではなく、「このデータは、〇〇というアクションを判断するために役立つ」といった、示唆に富む分析結果を提供しやすくなります。
- 分析結果から具体的なアクションへの落とし込みをスムーズに行うための橋渡しとなります。分析担当者は、分析結果が次にどう活用されるかを理解しているため、アクションに繋がりやすい「So what?(だから何?)」や「Now what?(次は何をすべきか?)」といった示唆を添えてレポートを作成できます。
- クリエイティブ改善や施策意思決定のスピードアップに貢献します。
3つの視点を踏まえた依頼の例
これらの3つの視点を踏まえると、データ分析担当者への依頼はより具体的になります。
例: 新しい広告バナーを配信し、Webサイトへの流入を増やしたいと考えている場合
「今回、ターゲット層である30代女性向けの新しい広告バナー(デザインA)を配信しました。(施策の目的・背景)
このバナーによって、これまでリーチできていなかった30代女性からのWebサイトへの流入が増加し、さらにWebサイト内で特定の資料請求ページへ誘導したいと考えています。(施策の具体的な目的・仮説)
つきましては、以下の期間におけるこのバナー(デザインA)の配信結果について、データ分析をお願いできますでしょうか。
特に、 * バナーのクリック率(CTR)が、他の30代女性向けバナーと比較してどうだったか。(成功指標) * このバナー経由で流入したユーザーの、Webサイト内での行動(特に資料請求ページの閲覧率やフォーム到達率、離脱率)が、他の流入元ユーザーや過去のデータと比較してどうだったか。(成功指標)
といった点について分析いただきたいです。
得られた分析結果は、今後の広告クリエイティブ制作の方向性を決めるため、特にどのようなデザイン要素やメッセージが30代女性に響いたのか、あるいは響かなかったのかといった示唆を得るために活用したいと考えています。(分析結果の活用方法・ネクストアクション)
もし、分析に必要なデータ(例: ユーザー属性データや特定のページの閲覧イベントデータなど)が十分に収集できていない場合は、その点についてもご指摘いただけると幸いです。
お忙しいところ恐縮ですが、〇月〇日までにご共有いただけますと助かります。」
このように、目的、成功指標、そして活用方法を明確に伝えることで、分析担当者は依頼の意図を正確に理解し、期待に応えるためのデータ分析を行うことができます。
まとめ
データ分析を単なる数値確認で終わらせず、具体的なクリエイティブ施策の改善や意思決定に繋げるためには、データ分析担当者との連携が不可欠です。そしてその連携を成功させる鍵は、マーケター側が明確な「成果に繋がる視点」を持ってデータ分析を依頼することにあります。
今回ご紹介した 1. 「何のために」その施策を行ったのか(施策の目的と仮説) 2. 期待している「具体的な変化・成果」は何か(成功指標、KPI) 3. 分析結果を「どう活用したい」のか(具体的なネクストアクション案)
の3つの視点を常に意識し、データ分析担当者と共有することで、得られるデータ分析の質は格段に向上します。これにより、データに基づいた根拠を持って自信を持って施策を提案・実行できるようになり、感覚とデータの融合によるクリエイティブ施策の成功確率を高めることができるでしょう。
データ分析担当者は、データの専門家ですが、マーケターのようにクリエイティブやビジネス全体の文脈、そして具体的な施策の意図を詳細に把握しているわけではありません。マーケターがこれらの重要な文脈や視点を丁寧に伝えることで、初めてデータ分析担当者はその専門知識を最大限に活かし、マーケターの課題解決に貢献できるのです。
ぜひ、次回のデータ分析依頼から、これらの3つの視点を意識してみてください。きっと、データ分析担当者との連携がよりスムーズになり、クリエイティブ施策の成果にも良い影響が現れるはずです。